Thursday, April 20, 2006

Mr. & Mrs. Smith

いやいや。この映画、とってもナイスです。こういう感覚、いまクールと呼ぶべき感覚なんだと思う。監督は「ボーン・アイデンテティ」を監督したダグ・リーマン。確か彼はその続編の「ボーン・スプレマシー」では製作総指揮を務めてたはず。いまイケイケなのかな。これらの製作の実績で、ブラッド・ピットとアンジーをこの映画に引っ張り出せたと思えばいいのかな。いずれにしろ撮影あがりの監督だから絵はむちゃくちゃかっこいい。プロデューサーの一人であるアキヴァ・ゴールズマンは今さら書く必要もないほど成功を重ねているが、この映画の練りに練られた脚本はアキヴァの香りがする。それから、撮影のボジャン・バゼリの名前は記憶しておきたい。どの場面も構図をシネスコサイズの良さを如何なく使いこなしていて驚くばかりだが、これは監督のセンスもあるだろう。冒頭のカウンセラーの質問に答える場面はヨコ一杯に構図として使っていて、まるで自分が聞き手になったような錯覚を起こす。これがテレビ放映とかになったら、どう切るんだろうか。どう考えても一人ずつを追いかけるようなカット割りになってしまって、二人が互いの演技を受けてのリアクションはきっとごっそり削り落とされてしまうのだろう。それだけでなく照明も撮影もすごく印象的な仕上げになっていて目を見張る思いがする。最初にすごいなと思ったのは序盤の二人が出会うシーン。その光の強さの表現や色彩を取り込むうまさには舌を巻く。意気投合して踊る場面も、手前を暗くして時折フラッシングの光で状況を映し出す。これが爆撃のようでもあり雷のようでもあり素晴らしい演出となって状況を醸し出す。さらに翌朝。眩しいばかりの、という形容詞そのものの強い光の表現。恐ろしくかっこいいホテルのベッドを固定カメラでの構図に加えて手持ちのゆらゆら感を与えたカメラで寄っていく。こんな凝ったことが出来るカメラマンはそうはいない。同時に遠くに聞こえる戦闘ヘリの音やパトカーのサイレンなど、状況の説明が重ねに重ねられていて情報の盛り込まれ方に圧倒される。ホント説得力がある。ここまで重ねるぐらいの事はどんな仕事であってもしたいもんだ。一転してニューヨークのボクシングジム。ここでもあえて見にくい撮影方法を選択している。声はするが話しているジョンの姿をなかなか見せない。これもうまい手だしブラピ好みに思える。一転してどこかの渓谷の岩山にへばりつくジェーン。二人とも一番の仲間に相手のことを話している。そしてあの邸宅。いまどきのリッチが見事に凝縮されていて、これも恐ろしいほどの美術だ。それに、その家の場面での撮影が凝っている。バスルームからクローゼットまでは鏡とタンスの扉の映り込みで絵を作っていく。本来肩が擦れ合うほどに狭い場所なのにまったくそれを感じさせないのには驚いた。ボジャン・バゼリは照明も天才的に思う。いや、映画での撮影と言えばそれはすなわち照明ってことか。家具も置かれているものや壁にかかっている絵などの趣味も、決してひとつのスタイルを表現しようと無理したようなものではなく、とても自然なのだが、どれもこれも最新の感覚にあふれている。いいなぁと思ったのはリビングの綿のような光源を放つシャンデリア。それとダイニングテーブルの上に輝く丸い玉が連なったような照明もすごく素敵だ。ジェーンが飾る趣味の悪いカーテンは後で銃撃戦の舞台となるあたりまでの伏線となる。衣装はローブなど家の中でのものがすごく上質で素晴らしい。ベッド周りの小物もすごく質が高いのがよくわかる。クッション、まくら、シーツやブランケットも全部買えば普通のものの20倍ぐらいの値段のものばかりだ。こうしたことをあえて映し込んでいるのも意図的と思える。そういえばジェーンが自分のユーティリティ室で電話をかけている場面があるが、壁にかかった写真が僕にはとてもウケた。確か6人がうずくまるように座っているのを俯瞰で撮ったモノクロ写真だったと思うが、なぜかとても印象に残った。それから、あのオーブン。まさかあそこにジェーンの武器が隠されているとはね。ナイフと銃を取り出した後に、ぷぃんと後ろ足でオーブンの扉を蹴り上げるところとかもナイス。それはさておき、この序盤の一連のシーンは、セリフもひとつづつに全部含んだニュアンスがあって全部ウソで固めた夫婦生活=隠れミノ生活の微妙なよそよそしさが面白い。約15分でそうした情景描写は完了する。しかし、この15分に塗り込められた情報の多さったら半端じゃない。20分すぎ、二人の仕事がそれぞれのスタイルで手際よく行われる。ジェーンが向かうホテルのペントハウスのインテリアも中々すごいが、すりガラスを通しての光や色の捉え方がとても美しい。ここにもボジャン・バゼリの才能が垣間見える。一方ジョンの方は場末のレストランの奥の部屋でポーカーに興じながらの仕事だが、ここはいかにもブラピらしい計算された演技が見れる。次の仕事は罠。互いの仕事の仕方はここでも対極的に描かれる。片や計画性の高いジェーン。砂漠の一本道からぐいぐいーんと寄って壊れた東屋に立つジェーンを映す手法は以前から映画ではよく見る手法だが、どうしてコマーシャルで使われないのだろう。それがとっても不思議。一方のジョンは登場の仕方もバギーに乗ってでそれらしいが、バズーカでどっかーんを狙う。互いを互いに知らずに邪魔モノとして殺しあう。街に戻った二人のすごし方も対照的。「ファーザーから電話です」だってさ。ファーザー。うまいジョークだ。先にジョンがジェーンの正体を見破る。ここで映画は40分。レキシントンのビルを調べに行くジョンのシーンもサングラスへの映り込みが素晴らしく効果を上げている。本当に徹底してワンカットごとに厚い情報を与えようとする意図が見て取れる。続いてジェーンがジョンの立ち小便の姿に感づく。さてさて、互いの正体に疑惑を持ちながらの夕食のシーンは見ている方まで緊張させられるわけだが、ここでの最大の効果は音楽と効果音。ひそひそ声で話すような音楽に乗せて剣を抜くときによくあるような切れ味鋭いと思わせるシャリーンという効果音。確信する場面がワインボトルを落とすという一瞬に込められているところがすごくかっこいい。こんな映画見たことないぜ。いよいよ対決。まずはジョンが一歩出遅れて納屋の武器を全部なくす。しかし負けてはいない。すぐにジェーンのオフィスのあるビルに忍び込む。それをさまざまな機器でスキャンするジェーン。しかし、こういう場面で描き出されるモニター画面って言うのは、どうしてこうもくどダサいのか。独自インターフェイスのデザインが必要なのはわかるが、そもそもモニター画面で物語の進行を表現しようとするときに、あまりに説明的な上にくるくる回ったりチカチカし過ぎやしませんかという感じ。どう考えてもあり得ない突飛な技術表現が描かれてしまうと逆に今のオーディエンスは萎えてしまうと思うのは僕だけだろうか。まぁ、この映画のインターフェイスのほとんどは読みやすいDINやOCRB書体を使っているだけまだマシだし、あくまでも演出効果の域に留めて物語をぐいぐい引っ張るのであまり気にはならない。最上階にジェーンのアジトがあるビルに忍び込んだジョンは、ジェーンを追い詰めるが、あっという間にデータ消去して隣のビルにぴゅーとワイヤーで逃げるのを撃てない。でもそこは躊躇が走って当然。その先には逆の立場で、ジョンの乗ったエレベーターの爆破をジェーンが躊躇。結局騙しあいで、互いに実力伯仲。物語はちょうどここで半分の1時間。なんとまぁ、基本通りとは言えよくまぁここまで…と思う。場面は一転してレストラン。ジョンが踊りながらジェーンを軽く痛めつけていくというシーンは、ジョンの性格を現していてうまいと思う。しかしジェーンも自分らしい方法でその場から抜け出す。ここからは、もう本気の対決。あの素敵な家もめっちゃくちゃ。よくまぁそれだけぶっ壊すなというほどのドンパチ。いやいやホントこの映画キレてる。しかし、思えばブラッド・ピットの出ている映画で、こういう殴り合いのシーンで手加減してると感じたことは一度もない。その逆に、常にそこまでやりますかというぐらいに徹底して彼は殴り、殴られる。それは、はにかんだ場面からキレた演技まで、そのすべてが彼の中で細かく計算されているという証拠だろう。だからこそ彼は武装派から紳士まで幅広い役を演じることが出来るのだと思う。彼はまぎれもなく当代随一の映画俳優だろう。一方のアンジェリーナ・ジェリーもマジかよというぐらいに応戦する。いくら映画用の小道具だとはいえ銃の重さは十分に感じられる。それは片手で軽々と扱う中に彼女の微妙な表情の変化に見て取れる。そういう細やかさは特筆していいだろう。大きな振り子時計にぶちかまされる場面とかも決して適当じゃない。「プライベート・ライアン」のように粉々に吹き飛ぶというような類の大袈裟な真実味ではなくとも、本気で相手を殺そうと思って殴り合っている細かなリアリティがあるからこそ、この突飛な物語を見ていられる。徹底的にやりあった後に本気の愛情が芽生える。二人が組んだら怖いものなし…と思いきや、最初から罠に落ちてる二人は両方の組織から狙われる。短い一服のあと、またもどんぱち。そしてどっかーん。この吹っ飛んだ家の場面はどうやって撮ったんだろう。こうして絵を飽きさせない構成も考えられてるが、僕がいいなと思うのは、こういう爆破しーんを極端なスローモーションなどで見せずにあっさりと終わらせる感覚だ。どうも最近のハリウッド映画は、こういうどっかんの場面がくどいと思っていたので、そんなのは全体の中でのひとつに過ぎないという引っ張らない感覚に共感する。直後に来るカーチェイスも迫力満点。思うのは個々の場面への予算配分を片寄らせずに常に全体のバランスを考えながら作るという製作者のセンスだ。それは敵のBMWをジェーンがスパッと片付けたあとの無言の間がすごく効いているところにも見てとれる。さてと、エディに話をつけて反撃開始。しかしエディを演じるヴィンス・ヴォーンはこういう演技しか出来ない役者だが、この映画では悪くない。そう考えるとあの「ビー・クール」はホント最低の映画だ。ここで残り時間30分。後はもうやっつけるしかないねという展開なわけで、どう料理するのかと思っていたら、罠役の小僧ベンジャミンを捕まえに行く。それも連邦裁判所の地下という設定で、まぁホントにこれでもかという設定を続けてくれる。さらに脚本が延々と夫婦喧嘩タッチ。面白くすべきことを考え尽くしたセリフ。ベンジャミンを拿捕した後のモーテルの内装と照明も手抜きが無い。画面の中での色彩や構図。どこまでも考えられていてほんとすごい。ようやく罠だと分った途端にピンチ。家具屋まで移動しての銃撃戦。ここでも最後まで「間」が見事。あの危機的状況に、あののんびり動くエレベーターの場面を挿入するなんて誰が考え付くだろう。さらにアクション映画としての最大の見せ場をダンスに変えて、結局、夫婦愛の物語に着地させる。いやいや、なんだかノートがすごく長くなったが、学習のポイントは「画面に盛り込む情報はどれだけ厚く出来るかを常に考え抜かなければならない。けれど全体に亘ってその密度を維持出来なければ観る側は萎えたり醒めてしまう」ってことだ。これは肝に銘じておくべきこと。ホントに勉強になった。ちなみにオフィシャルサイトはダサい。

2 Comments:

Blogger shinzo said...

げっ、あのキューバでの二人の出会いの場面のホテルって全部セットで作ったんだそうな。そう言われれば外観もなかったし入り口と続きのバー。それとベッドのある客室だけなんだけど、それにしては…。すごい仕事だ。で、ってことは…と思ったら、あのNYC郊外という設定の家は、パサデナに実際に“撮影のために”立てたという。だからあそこまで出来るんだ、とあきらめちゃ仕方ない。

6:10 PM, April 21, 2006  
Blogger shinzo said...

IMDbのケイト・ブランシェットのトリビアを読んでたら「Was considered for the role of Jane Smith in Mr. & Mrs. Smith (2005).」ってあった。うわー。このジェーン役がケイト・ブランシェットだったら…って想像するだけでも楽しい。もし実現してたら全然違ってただろうなぁ。

2:07 PM, December 07, 2008  

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