Monday, March 06, 2006

HEAT

どうも失敗したくない病が続いていて、別にこの映画が見たかったわけではないのだが安直な防衛策として大御所系を選ぶことにしたらなぜかこの作品に行き当たった。ロバート・デニーロとアル・パチーノの初共演で奏でるクライム・シンフォニー、とかいう宣伝文句。1995年公開。当時はそうだったのかもしれないがコピーライターが簡単にシンフォニーとかいう言葉を使うあたりバブル気分だよなと思いつつ見始める。始まった途端に彼ら二人の名前が並列に表示されるあたりもふーんという感じだった。まるで二人を見比べろと言わんばかり。デニーロがクールに登場するが両者の登場の仕方では濃厚なキスシーン演じるアルの勝ちだろうか。映画はいわゆるサビアタマな作り。ドンパチやって一気に状況説明となる。このあたりの手際よさはハリウッド一流のものだ。おっとジョン・ボイトまで登場じゃんよ。みんなファッションがアルマーニっぽくて今見るととってもダサい。1995年といえばトム・フォードに王座を奪われる直前の全盛期だもんな。序盤でちょっと待てよと思ったのはイーディの家。確かにサンセットの上は眺めいいけど、こんな眺めの良い場所に貧乏デザが住めるかね。というかそんな簡単に寝ちゃうわけとか思ったがまぁいいや。ベッドを見下ろすデニーロが無茶苦茶シブい。二人ともコルレオーネという伝説に残るマフィアを演じてきたわけだが、デニーロはカポネも演じているわけで、その分ワル役を演じるとそうしたイメージがつきまとって分が悪い。でもさすがにキレかたはデニーロ一流の演技で怖さは半端じゃない。中盤、早々にご両者の対面。ここが他の映画にはない展開で面白い。脚本もいいし二人とも素晴らしい。その後の展開はもうぐいぐいと引っ張ってくれて、この作品を選んで失敗しなかった安堵が早くも僕に訪れる。後半の展開は見事。延々とどきどきさせられる。手際よさは映画の中のデニーロ演じるニーロだけではない。この映画そのものの手際のよさに胸が晴れるような思いがする。脚本もよし。こういう映画は彼らのような一流の役者ナシには成り立たない。それをよくわからせる。美しい美術もあるが、そういうことに意識を留めさせない物語の展開。これはいい映画の持つ力だ。何度ももう終わりかなもう終わりかなと思わせつつ、帰結させていない伏線をひとつづつ潰して行きながら、静かにラストに向かっていくところは本当に素晴らしい手際だ。脇役もいい。というか脇の描き方も絶妙だ。普通の映画なら脇は脇としての程度にしか扱われない。しかしこの映画は脇にも十二分に演技の機会を与えている。そこに全員が精一杯取り組んでいて清々しい。それは主役二人に対するリスペクトから生まれたものだろうか。これほどまでに出てくる役ひとりひとりが本当にキチンと自分の役割を果たしきっている映画もない。その意味ではシンフォニーという宣伝文句は伊達ではなかった。確かにその通りと思える。見終わった後に調べてみるとマイケル・マンはこれを監督する前に、まったく同じ内容のテレビドラマを作っている。しかしその後に彼が監督した「アビエイター」も「コラテラル」も、どちらも映画の終わり方が中途半端で不完全燃焼だった。つまりこの作品はリメイクだからうまく出来たと理解するしかない。一度作ったものを作り直すのだから演じる誰もがどう演じればいいのかについて細かいところまで話し合えただろう。「マイアミバイス」も彼の仕事だが来年あたりから映画化が始まるらしい。とにかく最近は、枝葉ばかりが描かれたり、キャスティングに失敗していたり、伏線が帰着しなかったり、美術や衣装が手抜きだったり、撮影が無駄なモノを写しこみすぎていたり、余計なヴィジュアルエフェクツに勝手に酔っていたりと、そういう作品と時間を過したくない思いが強まってきている。でも、まずいものを食べるから美味しいものがわかるという理のように、よくないものを沢山見ることは悪くなる落とし穴を沢山知ることになる。わかっちゃいるけどね。

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