Monday, January 09, 2006

Veronica Guerin

この映画がどういう内容なのかまったく予備知識を持たないまま、単にブラッカイマー製作の映画だということだけで観てみた。濁った色調の澱んだ大気が漂う街を上空から舐めた後、いきなりアイルランドのジャンキースラムが映し出され、ヘロインを打った後に道端に捨てられたの注射器で遊ぶ子供たちの映像から始まって、おわゎ…という感じだった。明らかにブラッカイマー調の掴みではない。実在の女性を描く伝記なわけだが「エリン・ブロコビッチ」とは正反対の結末が待っていた。オヤジがキレてヴェロニカを殴り倒すとき、後ろでほくそ笑むワイフがいい味を出している。こういった脇の脇まできちっと固めるところがブラッカイマーの才だろう。いくらブラッカイマーがプロデュースしたとはいえ、内容的に巨額の興行収入が望める娯楽作ではないから映画の製作予算は限られていたはず。そう考えるとこの映画の苦心工夫が色々見えてくる。セットでの撮影と思われるシーンは少なく、またそうしたシーンでのカメラワークは大きく動かない。一方ロケでの映像は伸びやかに情景を映し出す。そうしたことも低予算ならではの工夫ではないだろうか。映像面でうぉっというような眼の覚める一瞬は無い。しかし一貫してカメラワークは秀逸だと言える。しかしながらケイトはすごい役者だと思う。彼女独特のあの表情での演技は感情をダイレクトに伝える。特に二度目に襲われたときの病院のシーンでのケイトの演技は本当に凄かった。あの手の震えでの心の中の恐怖の表現は素晴らしい。ラストシーンは美しかった。葬儀に集った数多くの人々の沈痛な表情は、まるで役者の演じるそれではなく、どこか上質なポートレイトが載った写真集を見た時のように心に残った。

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