Thursday, October 06, 2005

L'HOMME DU TRAIN

以下の物語のあらすじは、まるごと某サイトのこぴぺ。いかにもフランス映画っぽい作りだなっていうところも楽しめたが、正直言って、僕はただただジャン・ロシュフォールが好きで、それだけを見ていたような気がする。この作品でもロシュフォールは本当に素晴らしいと思った。以下、コピペあらすじ。

シーズン・オフのリゾート地を、一台の列車が往く。規則的な車輪の振動を刻む車内の座席には、年季を感じさせる革ジャンを身にまとったひとりの中年男(ジョニー・アリディ)が、額に皺深く刻み込まれた憂愁の面差しで坐っている。時折、その振動に耐えかねるかのように、苦痛の表情を浮かべ、こみかみに手を当てる男。激しい頭痛なのだろうか、あえぐように取り出したピローケースに、しかし錠剤は入っていない。やがて、誰ひとり乗客もいないプラットフォームに静かに滑り込んだ列車から、身体を引き摺るように転がり降りたその男は、疲れきった表情で、暮色の影の濃い街に出る。商店街は、次々と店じまいに慌しく、ようやく一軒のドラッグストアに足を踏み入れた彼は、店の奥から「狭心症の薬は、在庫切れでした」との店員の声を耳にし、振り返ると、そこにひとりの初老の男(ジャン・ロシュフォール)がいた。「アスピリン」。ぶっきらぼうに店員に注文した革ジャンの男を見た初老の男の表情が、微妙に変化した。「また寄るよ、じゃあ」。ほぼ同時に店を出たふたりの男。歩きながら、「発砲錠を渡しやがった」と吐き捨てる革ジャンの男の悪態を耳にした初老の男は、「水が要るね、うちで飲むかね」と応じる。これが、ふたりの運命の出会いの最初の会話だった。革ジャンの男の名はミラン、初老の男はマネスキエ。しかし、彼らは互いに自己紹介することさえない。

広大な庭に囲まれたマネスキエの屋敷は、人影もなく殺風景で、鍵も開けたままだ。ところが、その外見とは裏腹に、室内は意外なほど古風で、マネスキエの幼少時の写真が飾られたりと、何とも居心地の良さそうな暖かな佇まいを醸し出している。興味津々と部屋を見渡すミランは、「母が15年前に亡くなって、当時のままだよ。変化が嫌いでね」とのマネスキエの言葉に、興味津々、部屋を見渡したミランは、思わず「好きだ、ここには過去があるからね」。こうして興に乗ったマネスキエは、ミランにアスピリンを飲むための水を渡すのも忘れて、飾られた裸体画にまつわるセックスに目覚めた初恋の思い出を捲くし立てる。憮然とするミランに、「寡黙な傍観者が夢だった」と慎ましやかに告白するマネスキエ。発砲錠を溶かしたグラスの水を、ひと息に飲み干したミランは、「世話になった」と言い残して、屋敷を後にする。名残惜しそうなマネスキエの面差しは、しかしまるで何かを見通しているかのような戸惑いの表情を浮かべていた。いざ、ホテル探しに街に出たミランだが、あいにく人気のないシーズン・オフのリゾート地。ホテルの入り口には「秋季休業中」の張り紙が。しぶしぶ、屋敷に戻った彼を、マネスキエは待ってましたとばかりに部屋へと招き入れ、一族の英雄の話を始めた彼の長広舌は、澱む暇さえない。「土曜日まで、いてもいいか?」と尋ねるミランに、マネスキエは「いいとも、わたしも土曜に用事があるんだ」。マネスキエからの寝酒の誘いを断って、ようやくひとりになったミランは、スーツケースから3丁の銃を取り出し、慎重に箪笥に納め、鍵をかける。ベットに横たわり、煙草の紫煙をくゆらす彼の目は、うつろに天井を凝視している。

翌朝、屋敷から出かけようとしたミランは、庭でダンベルを使って筋トレをしているマネスキエを見かける。「時々やるんだ。似合わないが身体のためにね」。一方のマネスキエは、ミランの留守をいいことに、彼の部屋に忍び込む。そして、無造作に椅子に投げかけられたフリンジ付きの革ジャンに袖を通し、鏡の前でおどけてみせる。「俺の名はワイアット・アープだ」と、映画の台詞を口に出してキザにポーズを取るマネスキエは、そのとき、ポケットからこぼれ落ちた一枚の古びた写真を手にして、人知れず微笑む。そこには、アメリカの西部で撮影したと思しき若かりしミランが映っていたのだ。マネスキエは引退したフランス語の教師だ。訪ねて来る者は、個人教授をしている中学生の生徒と、月末ごとの庭師ぐらいで、キッチンに置かれた大きなテーブルに坐り、まるで孤独を紛らわすかのように、巨大なジグソーパズルに興じるのが日課になっていた。その頃、ミランは街のはずれで、茶褐色の車に乗った怪しげな2人組、マックス(シャルリー・ネルソン)、そしてサドゥコ(パスカル・パルマンティエ)と、来るべき“仕事”の打ちあわせをしていた。しかしミランには、長年の相棒だったルイジの到着がまだということが、やけに気にかかる様子だった。

屋敷に戻ったミランは、夕食の席でマネスキエにある頼みごとをする。「部屋履きを履きたい」。今までミランは、一度もスリッパを履いたことがないというのだ。思いがけない申し出に、マネスキエはいそいそとミランの足にスリッパを履かせ、部屋を歩かせる。「いいもんだな」と呟くミランに、マネスキエは「使い込むと、もっといい。肌の一部と感じてこそ、本物のスリッパとなる」と、途端に教師の威厳を発揮する。しかし、ひとたび心が通いあったかに見えて、ふたりの会話は意外と弾まない。思いあまって、マネスキエはミランを自慢のテラスに案内する。そして、土曜日に心臓のバイパス手術をすることを打ち明けるが、しかし、話はそこまで。どうやらマネスキエは、この手術に曰く言いがたい恐怖を抱いているようなのだ。
翌日、中央信用金庫に横付けされた車内には、ミランと例の2人組の姿があった。銀行強盗の算段らしい。下見も兼ねて、銀行のカウンターの前に立つミランの後姿に、銃口が押し付けられる。「動くな」。実は、それはふざけたマネスキエの手真似の銃だった。ビクリとするミランに、マネスキエは無邪気にこう叫ぶ。「強盗さ!昔からの夢なんだよ」。訝しげにふたりを見やる行員たち。そしてマネスキエは、ミランをランチに誘う。映画館でのファーストキスの思い出、母の遺産で初めてパリに出たが、雨にたたられ、満足に散在さえできなかった後悔。話し歩きながら、たどり着いたのは、教師時代の30年間、マネスキエの行きつけだったビストロだった。店奥のシートに坐り、マネスキエは馴染みのウェイトレスと軽口をたたく。そんなとき、大騒ぎしている若者グループのひとりが、ミランにぶつかり、詫びの言葉もなく、グループの群れに戻っていった。「怒らないんだ?」と意外そうに問いかけるマネスキエに、「ああ。こんなとき、老いを感じる。数年前なら謝らせた。これが現実だ」とたちまち諦観に表情が曇るミランを見て、マネスキエは「これができれば第二の人生が始まる」と言い残し、つかつかと若者の前に進み出る。そして、決然と「静かにしたまえ」と言い放った彼が耳にしたのは、思いがけない詩の一節だった。「中国のわが心のひとよ……」。若者はマネスキエの昔の教え子だったのだ。落胆した表情でシートに戻り、「第二の人生はおあずけだ」と呟くマネスキエを、ミランは驚きの目で見つめる。「大した度胸だ」

やがて、ふたりの心に微妙な変化が芽生えはじめる。バスルームごしに交わした“準備型”と“行動型”の男の話。ピアノを前にした“弱者”シューマンの音楽の話。しかし、現実はそう、うまくいくはずがない。ミランがパン屋にバゲットを買いに行っても、店員の対応はマネスキエに対するそれとは違う。お互いに、それは判っている。その夜、マネスキエの“寝酒”に付きあったミランは、彼からある頼み事をされる。翌朝、雑草が生い茂った廃墟の中に足を踏み入れるふたり。マネスキエの頼みごとは、射撃をすることだったのだ。最初は的外れのマネスキエの腕前だったが、慣れるにつれ、次第に的をとらえるようになる。そんなマネスキエに、ミランはアラゴンの一編の詩を朗読する。「ポンヌフで私は会った。遠い歌が聞こえてくる……」。続きを教えて欲しいというミランに、マネスキエは朗誦し、そして最後の詩句を口にする。「ポンヌフで私は会った。私のつぶやいた繰り返しに。かつて私の光だった同じ夢に。すり減った石畳の上に坐って」。明日、心臓のバイパス手術を受けるマネスキエの、そして決行を迷いながらも銀行強盗に挑むことになるミランの、それぞれの胸中に、この一節はどのように響いたのだろうか?

その日の午後、マネスキエが手術を前にしたレントゲン検査を受けている頃、ミランは街の美術館でルイジ(ジャン=フランソワ・ステヴナン)と再会を果たしていた。どうやら、ルイジはアル中のリハビリを受けていたようだ。屋敷に戻ったマネスキエは、彼の入院のため荷造りの手伝いにやって来た姉に対して、今まで胸に溜めていた不満のたけをぶちまける。「僕らに何が起きた?幸せに暮らしていた子供たちが、一瞬にしてミイラになった」。この激しい口論によって、姉との和解を獲得したマネスキエは立ち寄った理髪店で西部劇のヒーローよろしく髪を短く切りそろえる。手術の準備なのか、それとも長年のスタイルからのイメージチェンジなのだろうか?一方のミランは、マネスキエの留守をいいことに、屋敷にやって来た個人教授の生徒に対して、彼に代わってフランス語の授業を執り行っていた。束の間、互いの暮らしを味わってみる。もしかしたら可能だったかもしれない、もうひとつの人生。試みてはみるものの、しかしそれは、彼らには不似合いなもうひとつの人生なのだった。

その夜の食卓、マネスキエは長年の女友達ヴィヴィアンヌ(イザベル・プチ=ジャック)を屋敷に招いた。微妙にぎこちない空気が支配するテーブルで、ミランはヴィヴィアンヌにこう言い放つ。「彼の望みは愛情とセックスだ」。困惑しながらも、しかし彼女も負けてはいない。「人を混乱させたいの?嫉妬しているみたい」。その後、ヴィヴィアンヌが席を外した瞬間を見計らって、マネスキエとミランはテラスに出る。「若くして人生を諦めたよ」と悔恨の情に苛まれるマネスキエに、ミランは若々しく髪を刈り込んだ彼の顔をガラスに映し、「自分に自信を持て。これが本当の姿だ。年を経るほど、輝きは増すものだ」と力強く励ます。その夜、マネスキエが寝静まった頃、ミランの部屋の扉を叩いたヴィヴィアンヌは、「あなたのような人は、不幸をもたらすだけ。幸せとは縁遠い人よ」と“年増女”に相応しく、ミランの図星を突くのだった。こうして、金曜日の夜が更けていった。深夜の路上では、ミランの仲間を乗せた車と、マネスキエの手術を担当する執刀医の車が交錯する。

約束の土曜日の朝。まんじりともせず眼をさましたマネスキエを迎えたのは、ミランの手作りによる朝食だった。「9時15分の電車なら間に合う。それに乗ってくれ」と、この期に及んで銀行強盗決行を止めるマネスキエの願いを拒むように、ミランはかつて15年間、サーカスでスタントマンをしていたこと、そして、あの日、マネスキエが目にしたミランの若かりし頃の写真は、アメリカの西部ではなくサーカス場で撮影されたものであることを告白する。残された朝の時間は、穏やかに過ぎ去ってゆく。「すぐ、もとに戻るさ、以前のような静かな生活に」と言い身づくろいを整えるミランに、マネスキエは未練たっぷりの表情を浮かべる。「泊まれて良かった」「私も暇なら手伝えるんだが……本気だよ」こう最後の言葉を交わしたマネスキエとミラン。もはや2度と出逢うことはないだろうふたり。しかし、この別れの瞬間は、彼らが生きている限り、決してそれぞれの胸から消え去ることはないはずだ。こうしてふたりは、それぞれの運命の瞬間に立ち向かうことになる。

病院に到着したマネスキエは、手術に備え看護婦に体毛の処理を受けている。彼のブルーの瞳は不安を湛え、深い暗さを映している。我が身の恐怖なのだろうか、それとも別れ往くミランへの想いなのだろうか。そして、いよいよ手術の時。その頃、拳銃の準備も万端に、ミランはルイジや仲間とともに、計画通り目出し帽を被って中央信託銀行に押し入った。行員に銃を突きつけ、金庫を開けさせて、そこに眠る札束を次々と袋に入れるミラン。一方、手術室では、麻酔で眠るマネスキエの定期的な心音が、心電図を通して響き渡っていた。そして、銀行では、一枚の札を透かし見たミランの表情が一変する。ミランが慌てて金庫を出たとき、そこにはマックスの姿はなかった。そのとき、マックスを乗せたサドゥコの運転する車が、銀行の前を通り過ぎる。ミランはようやく悟った。「裏切られた」。銀行の玄関口で銃を振り回すルイジの前に、思わず立ちはだかったミランは、待ち構えていた警察の銃撃班が放つ雨あられの銃弾を一身に受け、石畳の路上に横たわる。彼の息は絶え絶えに、力なくあえいでいる。同じ頃、マネスキエの心音は、急激に弱く衰え、医師たちの尽力も空しく、瞬く間に停止してしまう。手術台の上で、力なく見開かれたマネスキエが見つめるのは何なのだろうか?路上に倒れたミランの青い瞳が、マネスキエの青い瞳と静かにオーヴァーラップする。

ここは何処なのだろう?ふたりの幻覚の世界なのだろうか。石壁が高く張りめぐらされた刑務所から出所したミランを待ち構えるマネスキエ。スーツケースを握ったマネスキエは、屋敷の鍵を無造作にミランに放り投げる。ミランは、目の前に落とされた鍵を拾いあげ、マネスキエとコンクリートの一本道を交錯する。人影のないどこかの駅からひとり静かに列車に乗り込むマネスキエは、規則正しい列車の振動音に耳を傾ける。一方のミランは、マネスキエの屋敷に向かい、ピアノの前に腰を降ろし、マネスキエが弾いていたピアノを奏でるのだった。彼のような人生を生きたい。もうひとつの人生を生きたい。ふたりの夢は、死によって実現されたのだろう。それは、美しくも切ない夢の完結なのである。

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