CHEBURASHKA
徹底的に自分を子供に戻してくれる映画だ。チェブラーシカは物語の中心的な存在であるが、彼はほとんど語らない。物語は彼よりも彼を取り巻く人々との対話として進んでいく。そこで描かれる精神は純粋無垢そのもの。しかし、そうでありながら、どんな存在でも働ける場を持てることも陰に示しているところは崩壊寸前の共産主義の悲哀も示す。夕刻になり、動物園から動物たちが帰宅していく場面などはぎょっとさせられる。一方、そういうことを考えてはいけない映画なのであろうと観ながら思う。愛くるしいチェブラーシカに素直に感情移入できる幼児に戻って素直に楽しめばいいのだろう。そこに主人公、脇を彩る善役、悪役が持つ心の揺れ動きに身を任す。それが正しい観方であろう。絵本のような美術は興味深い。同時に見慣れないロシア語のタイポグラフィも面白い。映画最初に現れる壁にポスターを貼っていくような表現手法は色褪せることがない。だが一方でものすごく古い映画のように思えて、実は「ゴッドファーザー」と同じ1972年に公開された映画である。1968年公開の「2001年宇宙の旅」の方が古い映画だと言われてもにわかに信じられないのは僕だけではないだろう。さすればこの素朴さとは何だろうか。単にお金がないということでもないだろう。時代はあのブレジネフ率いる恐怖政治の真っ只中にあっても、実際に当時のソヴィエト連邦の子供たちが、このような素朴さを持って暮らしていたということだろうか。そう思うとチェブラーシカが漂わせる哀しみは描かれる物語以上の深みを持って胸に迫る。
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