ALEXANDER
主題が描かれる時代ごとに当時の美術が映像の中に埋め込まれたカタチで見る事が出来るという理由もあって伝記映画というカテゴリーに属するものに昔から興味がある。しかしその一方で良く出来た伝記映画は僕のその視点からもう一段深く引きずり込む。「アラビアのロレンス」などは、その際たる映画だ。逆に美術や世界観などにばかり目が行ってしまう伝記映画は本来の映画としての力が弱いということになるが、そもそも美術や衣装がいい加減だと観るに耐えない時間を過ごすことになり苦痛を伴う。その点では、この映画の美術は本当に素晴らしかった。まずプトレマイオスが語るアレキサンドリアの図書室の造形に目を奪われれた。またバビロンの宮殿の作りこみなど、映画全編に亘り、あらゆるシーンで徹底した美術が観れたことには大きな満足があった。同時に演出のリアリティにも目が行く。おそらく「プライベート・ライアン」が流れを変え、以降の映画に傾向を与えたと思われるが、この映画でのリアリティにも徹底したものが感じられる。闘いの後、血にまみれた戦士を見舞うアレキサンダーの姿。そうしたリアリティが醸し出すものが映画全体にいかに大きな影響を与えるかを教えられるようだ。しかし映画そのものは普通の伝記映画だったと言わざるを得ない。結局こういう人だったという理解で終わってしまう。生まれから死に至るまでの一生を描くセオリーを変えると難解になってしまうのだろうが、なぜ彼はそこまで戦ったのかには結局迫りきれず、すごい場面が押し寄せる映画だったが心に残る感動のようなものは最後まで僕に訪れなかった。そこを後で考えると、すべてを目前で見てきた証人としてプトレマイオスを登場させた意味さえも首を傾げてしまう。アンソニー・ホプキンスという名優に演じさせたのにプトレマイオスが真実を語らなければならない背景にも曖昧さを残したことは残念に思った。人は語り部の話す物語に感動するのではなく、語られるべき生きさざまに共感し心を動かされる。残念ながらこの映画はそこに至れなかったと僕は感じた。
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