Wednesday, February 22, 2006

LES INVASIONS BARBARES

邦題は「みなさん、さようなら」。確か2003年度のアカデミー賞で外国語映画賞に選ばれたという記憶のみで、よくわからないままジャケット買いの勢いでこの映画を見始めた。そのために描かれる状況を掴もうと細々した部分に眼が踊る。電話をかける母親のいでたちと家具調度品の具合、電話を取る息子が着るシャツの洗練度。さらに彼が働く環境やデスクの大きさを掴む。オークションの場面に移ると白髪の日本人が真ん中に座っている。どうやら美意識を持てる程度の生活水準がある家庭を軸にした物語のようだ…という認識。映画がはじまって100秒程度で成立。その直後に映画のタイトルが出始める。こうした状況説明要因をすかっと整理して伝達する手法は、どんな場合でも非常に重要だし学ばなければならない。その後の病院の廊下を辿る90秒もすごい。当然、相当な演出があるわけだが90秒間延々と続く次から次へと展開する病人も含む病院の住人たちの姿に圧倒される。一転して静かさ。また騒々しさ。こういうテンポも重要だ。映像は適度に整理されていて無駄がなくフランス的美意識が漂う。まるで別荘のようにセバスチャンが父のために作り上げる病室も嘘がない程度にセンスが効いていて、声高ではなく目立たないが衣装も美術も練られているのがわかる。ハリウッドではこういう演出は常に過度になってウンザリする。物語はフランス語を話すカナダ人一家。息子セバスチャンはロンドンで働く証券ディーラー。モントリオールに住む母・ルイーズから父の病気が悪化しているので帰って欲しいと連絡を受ける。父・レミは女癖が悪く家族に迷惑をかけながら生きてきた。セバスチャンは複雑な思いを持ってフィアンセと共に帰国する。友人に依頼しての検査の結果、父は末期の癌。アメリカの病院に移そうとしたが父は嫌だという。同時に母から友人を呼んで楽しい病室にして欲しいと頼まれ行動を開始。途端にNYのWTCビルが崩壊する映像。そこに重なるように女遊びが過ぎる父は大学教授であり高い知性を持っていることを示す。友人たちが次々に個性豊かに集う。彼らは全員知性的で暗さを消すのに余計な事はしない。友人の一人のマヌケ妻が「私が薦めた奇跡の治療という本を読んだの」とストレートに聞いて帰宅する。それに対して知性ある友人たちは「彼女何歳?」という会話が始まり、「脳みそよりおっぱいの方が大きいようだ」と続く。さらにその後にマヌケ妻の夫が知性的な猥雑さを持って話を収める場面は見事。こうした脚本にも共感する。そうした脇を押さえる役者たちの積み重ねは枝葉の先にまで及び、テレビ版「ニキータ」での印象が強いロイ・デュプイが刑事役で好演を見せる場面や、会話の中に登場する女性たちをちゃんと映像化するなど、物語の隅々まで手を抜かず押さえている点も見ごたえがある。さらに中盤に湖に寄るシーンと後半の舞台として、以前Forests Foreverで特集したカナダのローレンシャン地方の美しい自然が見れるのだが、この映画の中でもカナダの誇る静かで美しい森として扱われていて少し安堵の気持ちになる。さて、映画は何を描こうとしたのだろうか。身勝手で破天荒な人生を送ってきた初老男。彼に訪れた抜け出し得ない苦難。それらを見守る家族と友人たちの重大な事態への知性的な対処・対応。麻薬と静寂への逃避によってさらに深まる抜け出しがたい苦しみ。そしてその周囲の人間たち自身が抱える個々の重大な問題点の表出。逝くことを受け入れるためには何が必要なのか。物語が進むにつれ、直視することも厳しく感じるほどの重圧を感じ続ける。一瞬たりとも無駄のない物語。しかしIMDBでも、ある日本のサイトでもこの映画をコメディという分類にも位置づけている。だが僕はそれには到底同意できない。この映画にはどこにも笑えるものなど存在しない。水面下にある多様な壮絶さを見ずしてこの映画をコメディという側面で見るなど僕には出来ない。

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