Saturday, February 11, 2006

HEAVEN

なんだかとんでもない映画を観てしまったような気がする。きっといつまでも僕の心に残る映画となるような気がしている。それは僕の中においてジャン・ジャック・ベネックスの「DIVA」以来の存在感のようなものだ。物語、脚本、映像、構図、美術、衣装、小道具…すべてに精緻。さらに俳優たちも完璧に思う。もう本当にすごいなと思うことだらけで何から書き残せばいいかわからないほど素晴らしいと思った。キェシロフスキの脚本とトム・ティクヴァの構成に心酔する。文字通り「天国」というテーマを自分が生きるべき時間の内容に置き換え、さらに主人公たちにその時間を限られたものとして手渡す。そこに神の視点を置いて描く映像も素晴らしく心地よい。普通のアクション系映画なら絶対に入る繋ぎの演出が見事に削られている潔さが、起こっている状況を追いかける流れとは別の思考を確実に指し示すようだ。言葉少なくものすごい心の葛藤を演じ切るケイト・ブランシェットに心酔する。揺るぎない殺意が同じく揺るぎない愛に底打ちされているフィリッパの複雑な心理を涙ひとつで演じきる場面は胸に迫る。透明なという形容詞がこれほどまでに当てはまる美しさは見たことがない。愛の深さを確かめようにフィリッポの眼差しを受け止める場面もケイトにしか演じられない深みがあって驚かされる。対するフィリッポも「プライベート・ライアン」でナイーブな役を果たしたジョヴァンニ・リビージ。彼も自分の持つ透明さを演技に滲ませる。さらに職務を越えて愛する息子を抱きしめるフィリッポの父親を演じるレモ・ジローネも強く印象に残る。彼がフィリッパに対する息子の気持ちを確かめたあとに口にする「なぜ人間は最も大切な瞬間にこうも無力なのだろう」という言葉。なんと深い言葉だろう。神の視座を暗示するかのような上空からの映像が映し出す整然と美しいトリノの街並み。向こうの世界へという暗示に思えるトンネルを越えた途端に広がる鮮やかなトスカーナの大自然。フィリッパたちが結ばれる場面も神々しいほど自然の美しさを捉え切る。宙を漂う感覚や、室内でも徹底的に柔らかなデイライトで描くフランク・グリーべの撮影も文句のつけようがない。深くて複雑なのに単純でもある。普段の暮らしで誰もがふっと心に過ぎるちょっと答えの出せないような物事の捉え方を考えさせる。この映画、たぶん満点に近い。僕はこの映画が持つあらゆる側面を今も味わい続けている。

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