Monday, September 12, 2005

The Day of The Jackal

これは1964年前後を舞台背景に1973に製作された映画。30年以上前の作品なのだが、子供の頃に観て、強烈な印象を残した一作だった。記憶の襞をなぞるように脳裏を探るとさまざまに象徴的な場面を思い出す。照準の中に完全に捉えたドゴールの頭を撃ち損じる瞬間の映像は自分でも驚くほど鮮明さを保って記憶から出てきた。負傷した退役軍人を演じて杖をつくジャッカルの姿も浮かんでくる。さらに式典が始まったあとジャッカルを追いかける刑事の息遣いや建物を見上げるパリの街の色も鮮明だ。そして隙間の開いた窓を見つけジャッカルの潜む屋根裏に駆け上がる場面。だがどうしたことか思い出すのはそうしたラストの息詰まる数分のみ。物語の背景やストーリー展開などは記憶の中から全部吹っ飛んでしまっている。当時の僕は中学2年の13歳。アルジェリア独立を認めたドゴールが軍部の反感を買ったことや当時の世界情勢など、まさに世界史を学び始めた僕には複雑で難しすぎる状況設定だったのであろう。実際、そうした欧米の歴史に疎いのは今も同じで変らないのだが、あの当時はシャルル・ドゴールというひさしの短い筒のような帽子をかぶった長身の男がフランス人の代表的なイメージとして自分の中に焼きついた記憶がある。余談だが当時の各国の長はそれぞれ個性的に特徴を持っていたように思う。アメリカはケネディ大統領。インドはネール首相。中国には毛沢東や周恩来。英国はチャーチル。ソヴィエト連邦にはスターリンやブレジネフ。キューバにはカストロ。日本では吉田茂や佐藤栄作などなど、なぜか容易に似顔絵とお国柄の出た衣装が描けるようなキャラクター性に富んでいたように思う。それに較べると昨今の指導者たちは顔が弱い。個性的と言えるのは北朝鮮のキム・ジョンイルはじめ全員危険分子と位置づけられた存在ばかりだ。民主主義は顔も変えてしまうということだろうか。余談が過ぎた。話を映画に戻す。そういう稚拙な知識しか持たない幼い僕の脳裏に「スナイパー」という存在を刻み付けたのは間違いなくこの映画だった。本当にそんな恐ろしいことを職業にしている男たちが現実にいるのかどうかは別として、身を隠し、遠く離れた場所から狙い定めて一撃で人を殺すという行為の単純さと、狙われた側の無防備さが強く印象に残った記憶がある。いずれにしろドキドキする演出部分しか覚えていないわけだが強く印象に残っているということは必ず学ぶべき手法が詰め込まれているはず。そうした思いを持ってもう一度見直してみることにした。この時代の映画を見ていると本当にストーリーテリングの基本を学ぶことが出来る。この作品も学習できる。映画が始まっての序盤で、物語の主軸となる暗殺の動機部分を無駄なく説明し尽くすが、そのスピード感は見事だ。当時の風景も今見直すと勉強になる。ベージュの大理石の官邸の前に黒塗りのシトロエンが居並ぶ光景は至極フランス的だし、当時のカフェの様子なども興味深い。シャモニーの山荘を映し出す場面でのズーミング手法も基本の基本だ。今では飛行機からタラップを降りることなど少なくなったがジャッカルが降りてくるオーストリア航空の機体にある斜体のタイポグラフィも字間が美しい。ジャッカルが準備を重ねるシーンには台詞はほとんどない。図書館、役所、空港、駅、列車…、国から国への移動もテロップを出さず、すべて情景描写の積み重ね。そのひとつひとつが本当に勉強になる。場面転換でも、伝令役の警官から役人に、そして側近へと書類が手渡されて届けられる流れに、後ろから続いて行くようなカメラワークで官邸の奥深くまで導いていく演出など本当に見事だ。エリゼ宮の内部も美しい。毛髪染めのオールドスパイスのボトル、ジャッカルが持つダンヒルのライター、「SAS」のビニールショルダーなどなど、往時の小物も懐かしくも重要な要素に思える。スイカを試し撃ちする場面で照準を合わせる段階ではプスっという手ごたえを続けるが、引きの絵に移ってから少し間をおいてどばっと割れ飛び散るさまを見せ、銃器の威力や行われようとしている暗殺が相当惨たらしい結果になることを与えていくなど演出も極めて精緻。そもそも用意周到なジャッカルにも思いがけない事故という出来事を与える原作が素晴らしい。物語はそこを切り抜けるために美しきモンペリエ夫人を誘惑し、静かに彼女を殺すあたりから一気に加速し始める。追っ手を紙一重でかわしながらパリに入ったジャッカルがサウナに行ってゲイとして身を隠すというアイデアもちょっと思いつかない。そのゲイの彼の暮らしぶりも身奇麗でセンスが良くフランスのゲイという意味ではすごくリアリティがある。そして舞台はすべて整ってのラスト。刻々と時間が過ぎる。そこには台詞はない。まるで自分がそこにいるがごとくの演出。ジンネマン監督の映画を見直してみたいと強く思わされた。

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