Sunday, September 11, 2005

Le Parfum d'Yvonne

邦題は「イヴォンヌの香り」。僕のフェイヴァリットのひとつ。最初に観たのは1994年頃だったと思う。そのとき僕はあまりの美しさに席を立てなかった。同時に映画の作られ方としてもアメリカ的な映画ではなくフランス映画らしい終わり方に強い印象を僕に与えた。当時の僕はファッションの仕事ばかりをしていた時期でもあり相当思い込みが強かったのかもしれない。しかし今見直しても全然古さを感じないのはなぜだろう。イヴォンヌは当時も今もその「しっとり」した美しさは変らない。ただ神々しく美しい女ではなく、映画の題名にあるような香りを伴ったしっとり感が画面から立ち上がってくるのだ。パトリス・ルコントの作品はどれもみな好きだ。ロシュフォール演じる「髪結いの亭主」でも、そうした香りのようなものを感じさせられる。それは決して匂い立つというような過剰さを持たず、常にそよ風のように映像の中を吹き抜ける。これがエレガンスというものだろう。美術と衣装は満点に近い。あらゆるものが徹底して選び抜かれたような知的な作業の結集に思える。その色彩感覚は「絵画のようだ」という形容詞で言い表すようなものではなく、これも香りのように見事に画面に溶け込んで美しい。無駄のない色彩の配置。柔らかく滑らかな質感。冷たさやぬくもりもひとつひとつのモノが持っている力を知り尽くした上でのスタイリング。そのひとつひとつを書き出し始めると本当にキリがなくなってしまう。華美ではないラグジャリとはこういう世界なのかと当時も今も何度見ても勉強になる。香りから呼び覚まされる記憶というものはおそらく最高に豊かなイマジネーションの世界だろう。焼きたてのパンの匂いのようなものではなく、タオルに感じる太陽の手触りのようなもの。掴めそうで掴めない。追いかけるとすぐに消えてしまうような、すれ違いざまの残り香のようなもの。そうした脆くもまちがいなくそこに存在する美しい感覚を、インタンジブルなままに伝えることが出来るようなアートディレクターになりたいと僕はずっと努力してきた。この映画はそうした方向性を強めるに大きな影響を僕に与えた。果たしていまの自分にそうした能力は備わったのだろうか。

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