MASTER AND COMMANDER
この映画の特徴として時間経緯を表現する部分がとても巧みだと感じた。実際、映画を観ることと併走するように僕のアタマに走った思考は、当時はこうも時間がかかる戦い方しか出来なかったのかという驚きだった。なにせ動力は人力と風でありスクリューを回すという技術もない訳だから、手持ちの望遠鏡で敵を発見してから戦闘開始まで何日もかける。実際は敵を発見した時点で戦闘は始まっているのだが、レーダーで捉えてミサイル発射。ばひゅーん。どごん。どがーん。というリズムが当たり前だけに、その間の長さに慣れるのに最初は随分戸惑った。砲撃が戦闘だと思い込んでいる自分に気づかされる。しかしそうした時代だったからこそ指揮官の洞察と戦略が重要であり、多少砲撃兵器の威力が劣っていても勝負が成立していた事が徐々に分ってくる。正確に当時の状態を再現しながらそうした理解を与える前半の展開は素晴らしく、観るものをぐいぐいと映画に引き込んでいく。また正確に再現された当時の船の様子が興味深い。先鋭戦艦は船の大きさに比べて乗員の数が非常に多い。それは航海のためだけではなく戦うために必要な人員であり、居住性よりも機動性を徹底的に優先した結果であろう。大型帆船での無数のロープを自在に操っての微妙な操舵術は恐ろしく奥が深そうだ。一方中盤には、そんな無敵の軍艦も無風には無力である様も描く。情景描写の割り振りが見事だ。だが、なによりラッセルが垣間見せる思慮深くも、どこかいつも楽しんでいるような演技が映画に厚みと軽快さを与えている。気品を表現するあたりも彼らしい。ラッセル・クロウは、彼を「ビーティフルマインド」で凄い役者だなぁと思い、「グラディエーター」では肉体派の役どころを苦もなく演じきるこの人の演技力を確かめたが、この作品でもその演技に心酔する。物語の途中、一度島に上陸はするが、主たる物語の舞台は大海原で木の葉のように舞う小さな帆船そのもの。敵の新型軍艦に奇襲をかけて突入するが敵側には最後の最後まで微塵も人物描写を与えない。敵の艦長を治療室に追い詰めたと思ったら相手はすでに戦死と告げられ遺品の剣が渡される。そういう徹底して相手側に無言を強いるあたり登場人数は多いが一種の密室劇のようだ。頭の中を「12人の怒れる男」やドイツの潜水艦を描いた映画がよぎる。そしてラストの「まじぇ」というドンデン返し。脚本が練りに練られていることがよくわかる。無駄なチャプターが見当たらない。印象深いシーンも数多い。この先どうなるのという微妙な続編の所在を匂わせつつも充分な満腹感。今のようにCGとVXF全盛の時代に強烈な印象を残す本当に良く出来た映画だと思う。
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