Inside Man
この映画がやけに良く出来ているように思えたのは「エネミーライン2」という超駄作を見た食後だからだろうか。構成、脚本、撮影、美術、衣装、さらに俳優たちの演技と、どこを切っても秀逸で、導入部から最後まで、ど、どうなるわけ?という一線を引っ張り続ける秀作であった。出世作となった「ドゥ・ザ・ライト・シング」やら、とか「マルコムX」など、常に製作から脚本まで手掛ける完全主義が災いして、どこか自己主張丸出しで映画を撮っていたスパイク・リーも、ずいぶんと大人になったようで、観客を楽しませる純エンターテイメント系映画が撮れるようになったようだ。だけど「モ・ベターブルース」以来なにかと言うと出てくる被写体を中心にカメラをぐるぐる回したり、へんちくりんなズーム効果を使ったりするスパイク・リーらしいダサさは、そこかしこに存在する。とはいえ完成度は非常に高い作品と言えるだろう。この映画の特に秀逸なところは脚本だが、いまどき銀行強盗の映画を撮るというところからして相当に考え、練りに練られたものだと言える。年齢・性別・貧富差など、ありとあらゆる人種を映画の中に存在させ、人種のるつぼであるNYCの持つ世界観を描こうとしているあたり、とても勉強になる。物語りも裏切られることはない。そういうことだったのか、なるほど、やられたなぁ、というラストがちゃんと用意されている。また、伏線として「スティング」や「オーシャンズ11」のような、どこかワル同士の表沙汰に出来ない因子を上手に利用して物語を紡いでいこうという意図がはっきりと存在し、NYCってのは、まさにそういう脛に傷のあるものたちが闊歩できる街だから、裏の裏のそのまた裏に潜む洗練度の高い駆け引きが、この映画では十二分に楽しめる。映画が始まった途端のこの「Chaiyya Chaiyya」っていうサントラがいい感じで、映画のテンポを伝えてくれる。作品としては、やっぱり演じている俳優たちの質の高さがなんと言っても大きいだろう。スパイクの作品には絶対出なきゃならんのか!という感じのデンゼルは僕にとってはどうでもいい。それよりも、クライヴ・オーエン、にジュディ、さらにウィレム・デフォーと、僕の好きな個性派が、それぞれの役柄を迷いなく演じ切っているからこそ、この映画は一流の輝きを見せる。美術的にはあまりそそられる場面はなかった。ただ、思わず目に焼き付けたのは、ジュディの超コンテンポラリーなペントハウスオフィスのインテリアと、むちゃくちゃ装飾の濃いチューダー調の銀行家の薄暗いオフィスの対比。あと、ちょっと驚いたのは、貸金庫の中から取り出されたカルティエの箱。ひょっとしてそんなに歴史を越えてずっと同じデザインなの?まったく今の箱と変わらないじゃん。真相は不明だけどカルティエならありうると思うところがブランドか。まぁ、とにかく良く出来た映画だったと思う。仕掛け、手口、ユーモアと、久しぶりに「大人が楽しめる娯楽映画」を楽しんだ。